食文化 · フランス料理
今年のクリスマスは、家族と一緒に過ごしてみませんか。
フランスではクリスマスを家族と過ごすつもりだと答えた人が8割を超え、24日の夜の祝いは祖父母の家で開くことが多いといいます。料理と料理のあいだにも話が続く、長い食卓の夜です。
クリスマスと聞いて、どんな光景を思い浮かべますか

恋人と過ごす日本のクリスマス
日本でクリスマスというと、イルミネーションを見に出かけたり、少し特別なレストランを予約したり、恋人へのプレゼントを選んだりする光景が浮かびます。いつの間にか日本では、クリスマスは「恋人と過ごす特別な日」になりました。
この過ごし方が日本で広く根づいたのは、それほど昔のことではありません。コラムニストの堀井憲一郎さんは、それまで「子供のお楽しみの日」でしかなかったクリスマスが、1980年代に一気に恋人たちの日へ変わった、とまとめています。
堀井さんが挙げるきっかけの一つは、1983年12月23日号の『an・an』の「クリスマス大特集」で、特集はイブを恋人とホテルで過ごしたいと打ち出しました。雑誌のほか、テレビや歌、広告も恋人たちのイブを描いたとされ、レストランで食事をしてプレゼントを贈る過ごし方は、一つの憧れとして広がっていきます。
恋人と過ごすイブも、日本で育った一つのクリスマスの文化です。けれど海を渡ったフランスでは、クリスマスの景色がずいぶん違います。
フランスのクリスマスは、家族が帰ってくる日
フランスのクリスマスは、今も家族や親しい人たちが集まる大切な機会です。クリスマスを家族と過ごすつもりだと答えた人は8割を超え、友人や一人で過ごすと答えた人はごくわずかでした。
人類学者のマルティーヌ・ペローによれば、24日の夜の祝いは祖父母の家で開くことが多いといいます。ふだん離れて暮らす子どもや孫も祖父母の家へ帰って大きなテーブルを囲み、その中心にあるのが食事です。
クリスマスはイエスの誕生を祝う日で、その24日の夜にとる祝いの食事を、フランス語でレヴェイヨン・ド・ノエルと呼びます。フランス語の辞書は、このレヴェイヨンの用例に「真夜中のミサのあとにレヴェイヨンをする」を挙げています。
19世紀になると、クリスマスはブルジョワの家族の祝いになり、その真ん中に子どもが来た、とペローは書いています。祝うのが一人の子どもの誕生なので、子どもを真ん中に置くようになった家族にとって、この夜はそのまま自分たちの祝いに重なったのかもしれません。
レヴェイヨンの食卓は、アペリティフから始まり、前菜、主菜、チーズ、デザートへと順に進みます。ユネスコが2010年に無形文化遺産に登録した「フランスの美食術」も、アペリティフで始まって食後酒で終わるあいだに少なくとも四つの料理が続く形を挙げ、誕生や結婚、再会など、人や集まりの節目を祝う食事だと説明しています。
急いで食事を済ませることはせず、料理と料理のあいだにも話を重ねながら、家族は何時間も同じテーブルを囲むことがあります。食べて、話して、また食べるうちに、夜は更けていきます。
フランスの家族にとってクリスマスのごちそうは、テーブルに並ぶ料理と、それを囲んで過ごす長い時間の両方です。
クリスマスの食卓には、何が並ぶ?
クリスマスの食卓に並ぶ料理は地方や家庭によって違い、フランス中で同じ献立を囲むわけではありません。それでもよく登場する食材はあり、たとえば牡蠣は、殻を開けた生のものにエシャロットやレモンを少し添えて食べます。
フランス観光開発機構のサイトは、牡蠣を名前に「r」の付く月にしか食べない貝として紹介していて、9月から4月までの食べごろにクリスマスがちょうど入ります。年末の祝いの食卓に欠かせないものとして最もよく挙がるのはフォアグラで、エスカルゴのほか、ホタテやオマール海老などの魚介が前菜に並ぶこともあります。
主菜には、栗を合わせた七面鳥や去勢鶏(シャポン)、詰め物をしたがちょうのローストが並び、時間をかけて焼いた大きな鳥を家族みんなで切り分けます。シャポンは「鶏の貴族」とも呼ばれる鶏です。名産地のブレス地方では12月中旬に四つの町で家禽の市「レ・グロリューズ」が開かれ、祝いの食卓のための去勢鶏を生産者から直接買えます。

食事の最後に待っているのが、丸太の形に巻いたケーキ、ビュッシュ・ド・ノエルです。名前はフランス語で「クリスマスの薪」を意味し、日本でもよく知られるようになりましたが、フランスでは今も各地のクリスマスの食卓に並ぶデザートです。

地方へ行けば、さらに違った食卓があります。南のプロヴァンスでは、24日の夜、真夜中のミサの前に家族で「グロ・スーペ(大きな夕食)」を囲み、そのあとに「13のデザート」を並べます。中身は町や家で違い、よく挙がるのは、干し果物とナッツを並べるマンディアン、白と黒のヌガー、オリーブ油で作る甘いパン菓子ポンプ・ア・リュイルです。
料理を一つずつ見ていくと、海辺で育つ牡蠣、ブレスの市で買う去勢鶏、ミサの前の夕食のあとに並ぶ13のデザートと、その土地の気候や農産物、信仰が、12月24日の一晩の食卓に集まっていることが分かります。
日本のクリスマスとお正月
和食は2013年にユネスコの無形文化遺産に登録され、農林水産省は和食の特徴の一つに「正月などの年中行事との密接な関わり」を挙げ、食の時間を共にすることで家族や地域の絆を深めてきたと説明しています。家族が集まって同じ食卓を囲む時間は、日本ではお正月にあります。
お正月には帰省があり、親戚への挨拶があり、おせちと初詣があります。おせちの料理には家族の健康や幸せへの祈りが込められているとされ、元日の食卓は、新しい一年を迎えるための習わしで埋まっています。
一方でクリスマスなら、両親と子どもだけでも、夫婦二人だけでもよく、新しい年を迎えるためではなく、その一年を一緒に過ごした人と、今年という時間を味わうための食卓です。
一年が終わる少し前に、「今年も一緒に過ごせたね」と言い合える夜を、家族の暦にもう一つ足してみるのはどうでしょう。
大切なのは、フランス料理を再現することではない
牡蠣を開けたり、大きな肉をオーブンで焼いたり、ビュッシュ・ド・ノエルを用意したり。フランスのクリスマス料理をそのまま真似してみるのも、もちろん楽しいものです。
けれど、フランスのクリスマスから持ち帰りたいものは、料理そのものだけではないのかもしれません。
いつもの夕食より少しだけ手をかけること。少しだけいいものを買ってくること。家族みんなで同じテーブルにつき、料理がなくなっても、すぐには席を立たないこと。
食べながら今年あったことを話したり、昔の話になったり、どうでもいいことで笑ったりする。
そんな時間こそが、クリスマスのごちそうなのだと思います。
料理には、不思議なところがあります。
何年か経って料理の細かな味は忘れてしまっても、誰と食べたのかは覚えていることがあります。オーブンから漂っていた匂いや、テーブルの上にあった皿、隣に座っていた人の笑い声まで、ひとつの記憶として残っていることがあります。
アルザスでは、12月になるとブレデレと呼ばれる小さな焼き菓子を家族で作ります。毎年同じ季節に、同じような菓子を焼く。子どものころに食べていた人が大人になり、自分の子どもとまた焼き始める。

そうして料理は、単なる「おいしかったもの」ではなく、その家の時間を覚えておくものになっていきます。
だから、豪華な料理でなくてもいいのだと思います。
子どもと一緒にクッキーの型を抜く。いつもより少し時間をかけて料理を作る。ケーキを一つ買って帰る。ワインやジュースを開けて、今年あったことを話す。
それだけでも、その家だけのクリスマスになります。
お正月には、お正月の家族の時間があります。
新しい一年を迎え、健康や幸せを願う大切な日です。
クリスマスは、それとは少し違ってもいい。
一年が終わってしまう少し前に、この一年を一緒に過ごした人たちと食卓を囲み、「今年もいろいろあったね」と振り返る夜。
そんな日が一年にもう一日あっても、悪くない気がします。
家族と一緒にいられる時間は、毎年同じように続いていくように思えて、少しずつ変わっていきます。
子どもは大きくなり、親も歳を重ねます。暮らす場所が変わったり、仕事が忙しくなったりして、以前なら当たり前だった「みんなで食卓を囲むこと」が、いつの間にか特別なことになっていきます。
だからこそ、何か大きな理由がなくても、みんなで集まる日をつくっておく。
「あの年のクリスマス、みんなであれを食べたね」
いつかそんな話ができるなら、その夜に食べた料理は、きっと十分に特別な料理です。
街へ出かけるクリスマスも、恋人と過ごすクリスマスも、もちろん素敵です。
でも今年は、大切な人の顔を思い浮かべたとき、その中に家族がいたなら。
「クリスマス、一緒にご飯を食べない?」
そう声をかけてみるのもいいかもしれません。
今年のクリスマスは、家族と一緒に過ごしてみませんか。
出典
- テレビ・コマーシャルの60年(AD STUDIES Vol.41、p.9)
- Noël en France
- Mission d’appui et de conseil à la production d’escargots(p.6)
- なぜ、そしていつ、クリスマスは恋人たちのものになったのか?
- Les Français, Noël et les fêtes de fin d’année(Femme Actuelle の依頼)
- Noël, de l’enfant quêteur à l’enfant gâté : le sens d’un passage(Ethnologies 29(1-2), pp. 285–302)
- Noël(クリスマスが祝うもの)
- réveillon
- Gastronomic meal of the French(2010年 無形文化遺産代表一覧表に記載)
- Un repas de Noël revisité selon les régions françaises
- Le Foie Gras, valeur sûre des fêtes de fin d’année 2024(CSA 調査)
- La volaille de Bresse(Les Glorieuses de Bresse)
- Les 13 desserts traditionnels du repas de Noël provençal
- Les treize desserts du repas de Noël dans le Luberon
- 「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されています
- おせち料理に、しあわせへの祈りを詰め込んで
- Les bredele, les biscuits alsaciens incontournables à Noël
関連レシピ
Huîtres Gratinées au Champagne
牡蠣のシャンパーニュ風グラタン
Terrine de Foie Gras
フォアグラのテリーヌ
Foie Gras Poêlé aux Raisins
フォワグラ・ポワレ・オー・レザン(フォワグラのポワレ 葡萄添え)
Escargots à la Bourguignonne
エスカルゴのブルゴーニュ風
Coquilles Saint-Jacques à la Bretonne
コキーユ・サン・ジャック・ア・ラ・ブルトンヌ(ホタテの殻焼き ブルターニュ風)
Bisque de Homard
オマール海老のビスク
Bûche de Noël au Chocolat
チョコレートのビュッシュ・ド・ノエル
Mendiants au Chocolat
マンディアン(4種のナッツと干し果物をのせたチョコレート)
Nougat Glacé Provençal
プロヴァンス風ヌガー・グラッセ
Butterbredele
ブッターブレデレ(アルザスのバタークッキー)
Boudin Blanc aux Pommes
ブーダン・ブラン、りんご添え
Bouchées à la Reine
ブーシェ・ア・ラ・レーヌ
Velouté de Châtaignes
ヴルーテ・ド・シャテーニュ(栗のヴルーテ)
Pâté en Croûte
パテ・アン・クルート
Gougères
グジェール
Noisettes de Chevreuil Sauce Grand Veneur
ノワゼット・ド・シュヴルイユ、ソース・グラン・ヴヌール
Tournedos Rossini
トゥルヌド・ロッシーニ(牛フィレとフォアグラ、トリュフ)
Canard à l'Orange
鴨のオレンジソース
Saumon en Croûte
サーモンのパイ包み
Chou Rouge aux Pommes
シュー・ルージュ・オ・ポム(紫キャベツとりんごの煮込み)
Marrons Braisés
マロン・ブレゼ(栗の蒸し煮)
Pommes Duchesse
ポム・デュシェス
Kougelhopf Alsacien
クグロフ・アルザシアン
Pain d'Épices
パン・デピス
Galette des Rois à la Frangipane
ガレット・デ・ロワ(フランジパーヌ)
次の週末は、コース料理を家で。
すべての皿が、いちばんおいしい瞬間に。
作りたい料理を選ぶと、Tabelia アプリが献立の買い物リストと当日の段取りをひとつに束ねます。前菜からメインまで、あなたのキッチンでコースを完成させるための道具です。
- 買い物をひとつに献立と代替後の材料から、チェックできる買い物リストを自動作成
- 段取りをひとつに待ち時間や火入れを組み合わせ、全料理の工程を一本のタイムラインに
- レシピの先まで、答える火加減の見極めもアレンジの相談も、調理中の疑問にChef Authenが具体的な判断基準で回答