基礎知識 · 3/7 · イタリア料理
牛肉のブロードを冷水から3時間煮る理由
牛肉のブロードは、冷水から静かに煮ると澄んだ仕上がりになります。カネーデルリのレシピでは、肉が骨から外れるまで3時間かけ、漉した煮汁の量をそろえてから塩加減を決めます。
冷水から始めた鍋と熱湯から始めた鍋で、ブロードの何が変わるのか

冷たい水から火にかける牛肉のブロード
牛すじや手羽先は、沸かした湯に入れて煮ることがよくあります。南チロルのパン団子のスープ、カネーデルリ・イン・ブロードのレシピでは、牛肉を冷たい水から火にかけ、沸かさずに3時間煮て、漉したあとで塩を入れます。
骨付きの牛バラ肉600gを塊のまま直径24cm以上の深鍋に入れ、冷水3000mlを注いで、蓋をせずに中火にかけます。タベリアの評価では、牛バラ肉を牛すね肉600gと牛骨200gに替えても、本格度は変わりません。

冷水から始めると澄む
アルトゥージは料理書『料理の科学と美食の技法』(初版1891年)の第1番「ブロード」で、良いブロードを取るには肉を冷たい水から入れ、鍋をごく弱い火にかけ、吹きこぼれさせないことは誰でも知っていると書きました。同じ段落で、良い茹で肉が欲しいなら沸いた湯に入れるようにと書き分けています。

鶏のストックを冷水と沸いた湯で始めて比べたアメリカズ・テスト・キッチンでは、冷水から始めたほうが透明に仕上がり、試食した人は味の差を感じ取れませんでした。一方、カネーデルリのレシピは、熱湯から入れると肉の表面が固まって旨みが出ないと注意していて、味の違いについては、この二つの説明が食い違います。
アクを取り、沸かさずに3時間
水が温まると、肉の表面から白灰色のアクが浮いてきます。アルトゥージはこの泡を、肉の表面のアルブミンが熱で固まり、血の色素と結びついたものと説明しています。おたまでアクだけをすくい、鍋肌の泡も濡らしたペーパーで拭き取ると、アクは10〜15分でほぼ出尽くします。
アクが出尽くしたら火を弱め、液面に5秒に1〜2粒の泡が上がる88〜92℃に落とします。強火でぐらぐら沸かすと、脂とタンパク質が乳化して白く濁り、二度と澄まなくなるので、30分ごとに火加減を確かめ、浮いたアクと脂を除きます。

香味野菜もこのとき入れます。玉ねぎ100gを皮付きのまま縦半分に切り、断面を3分焼いて濃い焦げ茶色にし、クローブ2個を刺して、にんじん100g、セロリ80g、ローリエ1枚、黒胡椒6粒と鍋に加えます。玉ねぎの断面を焦がすのは、ブロードに色と甘い香ばしさを付けるためです。

このレシピでは、肉が骨から自然に外れるやわらかさになるまで、蓋を半分ずらして3時間煮ます。その間に3000mlの水は1800〜2000mlまで減り、ブロードは澄んだ琥珀色になります。3時間はこの材料と火加減での目安で、牛肉のブロードすべてに同じ時間を当てはめるものではありません。
押さずに漉し、脂を除く
3時間たったら、トングで肉と野菜を引き上げ、目の細かいシノワか、濡らしたさらしを敷いたざるで別の鍋に漉します。中身を押すと細かい粒が落ちて濁るので、自然に落ちるのを待ちます。
表面の脂はおたまの底で薄くすくい、残った膜にはキッチンペーパーを1〜2秒当てて吸わせ、液面に脂の輪がほとんど浮かない状態にします。前日に引いて冷蔵すれば、脂が表面で固まるので、はがすだけで脱脂できます。

量を合わせてから塩を溶かす
漉したブロードは1800〜2000mlになります。1800mlに満たなければ熱湯を足し、多ければ沸き立たせずに煮詰めて1800mlに合わせてから、粗塩12gを溶かします。煮出しの途中で塩を入れると、煮詰まったときに塩辛くなります。
塩を入れる時期は資料によって分かれ、アルトゥージの病人向けのブロードは肉に塩をしてから冷水を注ぎ、料理誌『イル・クッキアイオ・ダルジェント』の肉のブロードは煮上げたあと熱いうちに塩をします。量を合わせてから溶かせば、鍋ごとに煮詰まり方が違っても、1800mlに12gという同じ割合で塩加減をそろえられます。
カネーデルリ・イン・ブロードでは、こうして塩を合わせたブロードを85℃に保ち、団子を2個ずつ入れた器に400mlずつ注ぎます。そのまま飲んで塩気がはっきり分かれば、塩加減は合っています。
出典
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