よくある誤解 · スペイン料理
バレンシアの人が数えたパエリアの材料は十種類
バレンシアのパエリアには、エビもムール貝も入りません。四百人の家庭の作り手を訪ねた調査が数えた十の材料から、魚介のパエリアが出汁を替えた別の料理である理由を追います。
バレンシアのパエリアに、エビとムール貝は入っているのか

日本のパエリア
日本でパエリアといえば、黄色い米の上にエビとムール貝、鶏肉、赤いパプリカを一度に並べた姿で、鍋ごと食卓に出す宴会の料理です。バレンシアの街から南へ下がったアルブフェラの水田地帯で同じ名前を頼むと、米の上にあるのは鶏とうさぎの骨付き肉、平たいさやいんげん、大粒の白い豆で、海のものは一つも載っていません。黄色はサフランの色で、米は平たい鍋に薄く広げて混ぜずに炊き上げますから、エビとムール貝を外して鶏とうさぎを載せるだけでは、まだバレンシアのパエリアにはなりません。
パエリアは、アルブフェラ湖の周りの湿地と海岸のあいだで15〜16世紀に生まれた料理とされ、農作業をする人が米と水に、その季節と手元にあるものを入れて外で炊いたと、スペインの食の調査誌は書いています。うなぎやカタツムリや野ねずみまで入ったと同じ調査誌は書いていて、鍋だけが決まっていて中身は決まっていない料理でした。

四百人の作り手が数えた十の材料
バレンシア・カトリック大学の人類学者パブロ・ビダルと教員のピラール・メドラノ、エンリケ・サエスは、バレンシア州の266の自治体を回り、50歳以上で料理を仕事にしていない作り手およそ400人にパエリアの作り方を聞きました。回答者の九割以上が必ず使うと答えた材料は、米、水、オリーブ油、塩、サフラン(または着色料)、トマト、平たいさやいんげん、ガロフォンと呼ぶ大粒の豆、鶏肉、うさぎ肉の十で、魚介はこの十に入りません。
十のほかに土地や店で足す材料があり、認定した店のレシピから統計を取るウィキパエリャの数字をスペインの食の調査誌が引いたところでは、全店に入る材料は米、水、オリーブ油、塩、サフラン、ガロフォン、うさぎ、平さやいんげん、鶏、トマトの同じ十で、そのほかにパプリカの粉、山のカタツムリ、ローズマリー、鴨の順に使う店が多く、北のカステリョン県ではアーティチョークが決まって入ります。家庭の調査と店の統計が同じ十を指していて、魚介はどちらにも出てきません。土地ごとに揺れているのはパプリカの粉やカタツムリ、アーティチョークのように十へ足す側で、米と水と油と塩とサフランに鶏とうさぎとガロフォンと平さやいんげんとトマトを加えた十までは、家庭でも店でも動きません。
魚介のパエリアは海岸の別の料理
魚介を使う米料理もバレンシアにはあり、海岸の町の人はエビやイカやムール貝のパエージャ・デ・マリスコや、魚のあらの出汁で米だけを炊くアロス・ア・バンダを同じ平鍋で作ります。どれもバレンシアーナに魚介を載せた料理ではなく出汁を替えた料理で、バレンシア風が水とサフランと鶏とうさぎから鍋の中で煮出すのに対し、魚介のパエリアは先に白身魚のあらと野菜で出汁を取り、その出汁で米を炊きます。
鶏と魚介を一つの鍋に入れる「ミクスタ」は、家庭の調査にも店の統計にも出てこない組み合わせで、肉と魚介を混ぜることをウィキパエリャは勧めていないと、英語圏向けのスペイン紙ザ・ローカルは伝えています。同紙によると、バレンシア州政府が2021年にパエリアを文化財に指定したときも、保護の理由として「大量の観光による変形」を挙げました。
共通して守るのは米の層とソカラット
具と出汁が替わっても、バレンシアの作り手が替えないのは炊き方です。バレンシア風も魚介も、鍋は底の浅い平たいパエジェラで、米は一層に薄く広げ、火にかけたあとは混ぜません。層が厚いと上下で火の通りが揃わないので、鍋の直径に対して米の量を抑え、一層に広げられる量までにします。混ぜないのは、米の表面の澱粉を出さずに粒をほぐれたまま炊き上げるためで、リゾットが混ぜてとろみを出すのと逆の方向です。水分がなくなる最後の数分で火を少し強め、底の米を薄く焦がしたソカラットを作るのが、どちらの米料理でも作り手が狙う仕上がりです。

ボンバ米は水を多く吸っても粒が崩れず、出汁の味を抱えたままほぐれます。バレンシアの作り手がこの米を選ぶのはその食感のためで、日本のうるち米で炊くと粘りが出て粒がまとまり、ソカラットは作れてもほぐれる食感は変わります。
鶏とうさぎから魚介とイカ墨へ
家で炊くなら、具を増やさず、まず鶏とうさぎと豆のパエリア・バレンシアーナで、出汁を鍋の中で取りながら米を一層に広げて混ぜずに炊き、最後にソカラットを作るところまでを一度通してみると、米の層の厚さと火加減の勘所がつかめます。次に魚のあらで出汁を先に取るパエージャ・デ・マリスコに進み、同じ炊き方でイカ墨を溶いたアロス・ネグロまで進めると、具と出汁が替わっても炊き方は一つだと分かります。
出典
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