食文化 · スペイン料理
トマトが来る前のガスパチョは白かった
赤いガスパチョは19世紀に生まれた形で、それより前のガスパチョはパンとにんにくと油と酢で白っぽいものでした。アホブランコとサルモレホを並べて、三つが同じ一族である理由を追います。
トマトのないガスパチョは、何でできていたのか

日本のガスパチョ
日本でガスパチョといえば、トマトときゅうりとピーマンをつぶして冷やした赤いスープで、夏のレストランの前菜に出てきます。アンダルシアの畑で働く人が何百年も飲んできたガスパチョも、いまは同じように赤いものです。ただしトマトがスペインの台所に入ったのはアメリカ大陸から渡ってきた後のことで、EFE通信の記事は、トマトが入ったのは19世紀、サルモレホはそれより遅いかもしれないと書いています。それより前のガスパチョは、パンとにんにくとオリーブ油と酢と水でできていて色は白っぽく、日本の赤いガスパチョからトマトときゅうりとピーマンを抜いた残りが、畑の人が何百年も飲んできた形です。
1611年、セバスティアン・デ・コバルビアスは辞書『カスティーリャ語の宝』でガスパチョを「刈り入れ人と粗野な人々の食べ物」と書き、18世紀には法律家パブロ・デ・オラビデがアンダルシアの日雇い農民の主食として記録しています。19世紀には大農園が賃金の一部として日雇い農民に配るようになりましたが、決まった作り方はまだなく、トマトが入った作り方が本に載り始めるのは19世紀の末で、1888年のマリアノ・パルド・デ・フィゲロア『現代の食卓』がその一つです。
パンとにんにくと油と酢
古いガスパチョは、固くなったパンを水で戻し、にんにくと塩を木の鉢ですり、オリーブ油を少しずつ加えて乳化させ、酢と水でのばしたものです。材料を並べるだけならただの酢水で、パンとにんにくに油を少しずつ混ぜ込んで白く濁らせる手順があって初めてガスパチョになります。暑い夏の畑で、水分と塩と油を一度に取れる食べ物でした。スペインの食の調査誌は、この形をローマ軍の兵士が水筒に入れていた酢水ポスカ(水・酢・塩・すりにんにく・オリーブ油)につなげていますが、調査誌自身が「おそらく」と断っている説です。
トマトもピーマンもないので色は白く、味はにんにくと酢と油で決まります。きゅうりはトマトより先に加わり、トマトとピーマンはアメリカから来てから入ったと同じ調査誌は書いていて、パン粉や玉ねぎ、そら豆、砕いたナッツを加えた流れがアホブランコになったとしています。肉を使わないので、イスラム支配の時代にもイスラム教徒にもユダヤ教徒にも禁じられず、半島の大半に広まったというのも同じ調査誌の記述です。
白いままのアホブランコ
マラガのアホブランコは、皮をむいた生のアーモンドとパンとにんにくを水とオリーブ油と酢ですりつぶした白いスープで、トマトの入る前の形をいまも残しているとされる料理です。マラガにはアーモンドの木が多く、それでこの料理ができたと、パブロ・デ・オラビデ大学のレシピ解説は書いています。アーモンドの脂とオリーブ油をパンに混ぜ込んで白く濁らせる手順は古いガスパチョと同じで、トマトがない分、酸味は酢だけで出し、にんにくは少量で足ります。
マラガの人はアホブランコにマスカット種のぶどうを浮かべます。甘い果汁がにんにくと酢の角を丸め、冷たい白いスープに一粒ずつ甘みが入り、りんごやメロンを入れる家もあります。トマトの入らない白い形が土地の料理として続いていることは、アシャルキア地方のアルマチャル村が1969年から毎年9月の最初の土曜日にアホブランコ祭りを開いていることからも分かります。

トマトが入って赤くなった
同じパンとにんにくと油にトマトが入ると、水とパンの量で二つに分かれます。ガスパチョは水を多くして飲み物に近く、きゅうりとピーマンも入るのに対し、コルドバのサルモレホはパンを多くして濃く、スプーンで食べる濃度まで詰め、ゆで卵と生ハムを散らします。EFE通信の記事によると、1611年のコバルビアスの辞書でサルモレホは「うさぎ用のソースかマリネ液」で、1892年のアンヘル・ムーロも『料理辞典』でまだ「水・酢・油・塩・胡椒でできた古いソースで、うさぎに添える」と定義していて、トマトはまだ入っていません。
トマトを大量に入れる今の形が家庭に広まったのは、1960年代に家庭用のハンドミキサーが普及してからだと食の調査誌は書いています。ミキサーが家庭に入ってからトマトを大量に入れられるようになったので、赤いガスパチョは材料の移り変わりの中でいちばん新しい形です。
ガスパチョ
トマト、きゅうり、ピーマン、パン、にんにく、オリーブ油、酢、水。水を多くして飲む濃度にし、冷やしてグラスでも出す。
サルモレホ
トマト、パン、にんにく、オリーブ油、塩、少量の水。パンを多くしてスプーンで食べる濃度にし、ゆで卵と生ハムを散らす。酢を入れない家もある。

三つに共通する油の乳化
ガスパチョもサルモレホもアホブランコも、作り方で同じなのは油を一度に入れないことで、パンとにんにくをすりつぶしたところへオリーブ油を細く垂らしながら混ぜ、油が分かれずに白く濁るまで乳化させます。1888年の『現代の食卓』はトマトをすったあとにパンと油を加え、鉢でよく練ると書いています。1913年のエミリア・パルド・バサンの作り方では、トマトとパンをすり、水を加えてさらにすったあと、油をゆっくり加えるよう勧めています。油を少しずつ加える手順を明記しているのは後者です。冷やすと油が締まって濃度が上がるので、水で調整するのは食べる直前です。
家で試すなら、まずトマトの入らないアホブランコで、材料をすべてミキサーに入れずに、アーモンドとパンに油を細く垂らして乳化させる手順を一度通してみると、白いスープがとろりとつながる瞬間が分かります。次に同じ手順でトマトを足してガスパチョにし、パンを増やしてサルモレホまで詰めれば、トマトが入る前と後の作り方が三つのボウルに並びます。
出典
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