食文化 · イタリア料理

トレヴィーゾの食堂が1972年に載せたティラミス

ティラミスはイタリアでも半世紀ほどの菓子で、トレヴィーゾの食堂が献立に載せたのは1972年です。作った店が分かるから元の形も分かり、生クリームと酒を抜けば家でも戻せます。

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ティラミスは、誰が作った菓子なのか

コーヒーを染ませた生地とクリームを重ね、ココアを振ったティラミス

日本のティラミス

日本でティラミスといえば、コンビニの棚にもカフェの献立にも並ぶ定番で、マスカルポーネのクリームとコーヒーを染ませたスポンジを重ねた姿はどこで食べても大きく変わりません。誰がいつ作ったかを気にして食べる人は、まずいないでしょう。イタリアの菓子としては意外なほど新しく、ヴェネト州トレヴィーゾの食堂レ・ベッケリエが献立に「ティラメス」と書いたのは1972年で、半世紀と少ししか経っていません。

名前はイタリア語の「ティラミ・ス(私を引き上げて)」で、トレヴィーゾの方言では「ティラメス」と呼びます。カンノーリやパネットーネのように何世紀もさかのぼるとされる菓子と違い、ティラミスは作った店と人の名前が残っていて、店は2010年10月15日に作り方を公正証書にしてイタリア料理アカデミーに預けました。作った店と人が分かる菓子は元の形も資料で分かるので、日本の冷蔵庫のティラミスが元の形からどこで変わったかをたどれます。生まれた年は資料によって1960年代の末から1972年まで揺れますが、献立に載った年として店が示すのは1972年です。

レ・ベッケリエが献立に載せるまで

トレヴィーゾの中心、アンチロット広場にあるレ・ベッケリエの資料は、ティラミスの話を1955年から始めています。当時の店主アルバ・カンペオルが息子カルロを身ごもっていた1955年、姑は体力をつけるためにザバイオーネとコーヒーを混ぜた「ズバトゥティン」を作って飲ませていて、厨房に戻ったアルバはこの記憶から新しい菓子を作ろうと、菓子職人ロベルト・リングアノット(通称ロリ)と長い試作を始めました。試作は1971年から72年にかけてまとまり、1972年に献立の菓子の欄に「ティラメス」が載りました。

トレヴィーゾのブラネッリ運河と両岸に並ぶ建物
レ・ベッケリエのあるトレヴィーゾ市街。写真はブラネッリ運河。写真:Didier Descouens/CC BY-SA 4.0(縮小・WebP変換)。

トレヴィーゾ式の作り方について店の資料が挙げる評価が、2019年3月20日にティラミス・アカデミーが贈った「本当のトレヴィーゾのティラミスのレシピが生まれた店」の称号です。2024年3月21日には農業食料政策省がヴェネト州の伝統食品(PAT)の一覧にトレヴィーゾのティラミスを載せ、店の資料は、一覧に載ったのは元の作り方ごとだと書いています。

最初の形はザバイオーネの延長

トレヴィーゾのティラミスは、卵黄と砂糖を泡立ててマスカルポーネを合わせたクリームと、濃いコーヒーに浸したサヴォイアルディ、仕上げのココアでできていると米国のイタリア系紙ラ・ガゼッタ・イタリアーナは書いていて、この材料の並びに生クリームも酒も出てきません。同紙が伝えるリングアノットの回想では、バニラのアイスクリームを作っていてマスカルポーネを卵と砂糖に合わせたのが始まりで、アルバがコーヒーに浸したサヴォイアルディを足して名前を付けました。クリームの作り方は、卵黄と砂糖を白くなるまで泡立てるところまでザバイオーネと同じで、湯せんにかけず、マルサラの代わりにマスカルポーネを混ぜ込みます。

卵黄、砂糖、マスカルポーネ、サヴォイアルディ、コーヒー、ココアを並べた材料写真
トレヴィーゾのティラミスの材料。卵黄、砂糖、マスカルポーネ、サヴォイアルディ、コーヒー、ココアを並べたイメージ。

生クリームで固めない分、クリームの硬さは卵黄の泡立てと冷やす時間で決まり、サヴォイアルディはコーヒーをさっと通すだけにし、浸しすぎると層が崩れます。日本で定着した作り方には、元の材料にない生クリームで軽くしたり、リキュールで香りを付けたりするものがあり、タベリアのレシピもコアントローで香りを付けています。生クリームもリキュールもトレヴィーゾの店の材料にはなく、二つを抜けば店が献立に載せた形に戻ります。

フリウリの主張

隣のフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州にも、自分たちが先だと言う店があります。ゴリツィア県ピエリスの食堂ヴェットゥリーノは、1938年から「ティレメス」という名の半冷凍の菓子を出していたと主張していて、2017年7月29日付の官報では、農業食料政策省がフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の伝統食品の一覧にティラミスを載せています。ヴェネト州の一覧にトレヴィーゾのティラミスが載ったのはその7年後の2024年です。

省は二つの州の一覧に両方を載せていて、国としてどちらかを選んでいません。トレヴィーゾの店が主張の根拠にしているのは献立に載った年と公正証書で、ピエリスの店が根拠にしているのは半冷凍の菓子の名前で、同じ名前を名乗る菓子が同じものかどうかは資料からは分からず、この記事でたどってきたのは、公正証書と店の資料に残るトレヴィーゾの形です。

ザバイオーネからティラミスへ

家で作るクリームも、店の資料どおり卵黄と砂糖の泡から始めます。まず卵黄と砂糖とマルサラだけのザバイオーネで、湯せんの上で泡立てて白くもったりするまでの手の感覚を一度覚えると、ティラミスのクリームで卵黄をどこまで泡立てればよいかが分かります。次にマルサラを抜いた同じ泡にマスカルポーネを合わせ、コーヒーをさっと通したサヴォイアルディと重ねれば、コアントローを足さない限り、トレヴィーゾの食堂が1972年に献立へ載せたティラミスが家の冷蔵庫にできあがります。

出典

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