よくある誤解 · イタリア料理

ボローニャにスパゲッティ・ボロネーゼはない

ボローニャの人はラグーをタリアテッレに絡め、スパゲッティには載せません。麺の違いに見えるこの習慣を、肉を二時間煮る作り方とひき肉をトマトで煮る日本のソースの違いとして、商工会議所に預けられた作り方から追います。

公開 · 読了目安 7分

日本のボロネーゼを平打ち麺に載せ替えれば、ボローニャで通じるのか

ラグーを絡めた平たいタリアテッレ

日本のボロネーゼ

日本でボロネーゼといえば、ひき肉をトマトで煮た赤いソースをスパゲッティに絡めたもので、喫茶店の献立ではミートソースと並んで定番です。ボローニャの食堂で同じ名前を探しても、献立にスパゲッティ・ボロネーゼの行はなく、載っているのはタリアテッレ・アル・ラグーで、ソースはトマトの赤より肉の色が勝った濃い橙色、麺は卵を練り込んだ幅の広い平打ちです。

2019年には当時のボローニャ市長ヴィルジニオ・メローラが、世界の店で出ているスパゲッティ・ボロネーゼの写真をSNSで集めて、フェイクニュースだと訴える運動を始め、この運動は、スパゲッティという麺の名前を軸に伝わりました。日本のボロネーゼを平打ち麺に載せ替えればボローニャで通じるかというと、ボローニャの人が見ているのは麺より先にソースで、同じラグーは緑のラザニアの層にも入り、肉を詰めたトルテッリーニと並んで食卓に出ます。

商工会議所に預けられた作り方

イタリア料理アカデミーのボローニャ支部は1982年10月17日、ラグー・アッラ・ボロネーゼの作り方を公正証書にしてボローニャ商工会議所に預けました。同じ商工会議所にはアカデミーが1972年4月16日に「本物のタリアテッレの寸法」を預けていて、アカデミーは2023年の資料で、当時の動機を「裸のまま預けられたタリアテッレに、ふさわしいラグーを着せるため」と振り返っています。預けた作り方は本や雑誌に引用されて基準になりました。その四十年のあいだに材料も鍋も熱源も変わり、アカデミーは街の食堂と古い家庭と食の専門家に質問票を送って作り方を集め直し、2023年4月20日に改訂版を預けました。

赤いれんがのアーチが見えるボローニャのパラッツォ・デッラ・メルカンツィア
ボローニャ商工会議所が入るパラッツォ・デッラ・メルカンツィア。写真:Armin Kleiner/CC BY-SA 4.0(縮小・WebP変換)。

改訂版の材料は6人分で、肉は粗く挽いた牛肉400gと生の豚バラ肉150g、トマトは裏ごし200gと二倍濃縮の大さじ1、水分は赤か白のワイン1杯と肉か野菜の薄いブイヨンに任意で牛乳1杯、ほかに玉ねぎ・にんじん・セロリを各60gほど、オリーブ油大さじ3、塩と胡椒です。ボローニャで昔から使っていた牛の横隔膜(カルテッラ)は手に入りにくくなったので指定を外し、ブイヨンは固形でも構わないと明記しました。牛6割・豚4割の合い挽きや包丁で叩いた肉は許される変形に入れ、仔牛肉、燻製のパンチェッタ、にんにくやローズマリー、とろみ付けの小麦粉は認めていません。

日本のボロネーゼはひき肉をトマトで煮ている

日本のボロネーゼの赤は、炒めたひき肉にトマトの水煮やピューレを注ぎ、トマトの水分で肉を煮た色で、ソースの中に肉の粒が散った形に仕上がります。預けられた作り方では、豚バラ肉と刻んだ香味野菜を中弱火でしんなりさせ、肉を加えて十分ほど炒め、ワインを香りが消えるまで飛ばしてからトマトを入れ、熱いブイヨンを足しながら蓋をして二時間、肉によっては三時間煮ます。牛肉400gに対してトマトは裏ごし200gと二倍濃縮の大さじ1で、ワインは飛ばし切ってあるので、二時間のあいだは熱いブイヨンを必要に応じて足し、最初に注ぐ一杯は水でもよいとされています。途中で牛乳を加えて煮詰め切る手順は「古くからの勧められる伝統」として残り、アカデミーは仕上がりを「濃い橙色で、包み込むようにとろりとしている」と書いています。

色の違いは、トマトの量を減らせば消えるものではなく、何を煮ているかの違いです。日本のボロネーゼの赤はトマトを煮た色で、ラグーでは肉と豚バラ肉の脂とトマトをブイヨンで二時間煮詰め、アカデミーが記す濃い橙色のとろりとした仕上がりを目指します。牛乳を加える場合も途中で煮詰め切りますが、牛乳は任意なので、ラグーの色を牛乳の有無だけで説明することはできません。同じひき肉とトマトを買ってきても、トマトの水分で煮れば日本のボロネーゼになり、ワインを飛ばし切ってからブイヨンを足しつつ二時間煮ればラグーになるので、二つは材料の近い別の料理です。

麺はタリアテッレ

市長の運動が世界に伝えたのはスパゲッティという麺の名前でしたが、ボローニャの人が選んでいるのは、二時間煮て肉の粒と脂が一つにまとまったラグーを抱えられる麺です。預けた作り方の冒頭にタリアテッレの名が出るとおり、ボローニャの人はこのラグーを卵を練り込んだ平打ち麺に絡めます。平麺は表面積が広く、卵入りの手打ち生地はわずかにざらつくので、肉の粒と脂を麺の上に抱えたまま口に運べるのに対し、乾麺のスパゲッティは表面がなめらかで細く、肉の粒は麺のあいだを滑って皿の底に残り、麺だけが先に持ち上がります。

卵入りの生地は00粉と卵だけで打ち、日本で00粉が手に入らなければ強力粉で代用できます。強力粉は00粉よりコシが出るぶん、延ばすときに薄さを揃えて少し休ませれば、噛んだときの硬さが揃い、脂を抱える表面のざらつきも残ります。

打ち粉をまとった黄色いタリアテッレを広げ、平たいリボン状の幅を見せる
卵を練り込んだタリアテッレ。平たい幅のある麺の形を示したイメージ。

同じラグーで作る緑のラザニア

同じラグーを、ボローニャではラザニアにも使い、ほうれん草を練り込んだ緑の卵生地を茹でて、ラグー、ベシャメル、パルミジャーノを交互に重ねて焼く作り方で、ラグーを二時間煮て濃度を出しておかないと、重ねた層が崩れます。ラグーを多めに仕込んでおけば、一度目はタリアテッレに絡め、翌日は同じ鍋からラザニアを組めます。

家で試すなら、トマトを牛肉の半量に抑え、ワインを飛ばし切ってからトマトを入れ、ブイヨンを足しながら二時間煮る手順を、まずタリアテッレ・アル・ラグーで一度通してみると、ソースの色が赤から橙に変わる瞬間が分かります。麺を選ぶのはそのあとで、同じラグーでラザニア・アッラ・ボロネーゼを重ねると、肉の粒を抱える平麺と、層を支える濃いラグーの両方を一度の仕込みで試せます。

出典

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Chef Authen

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