暮らしと習慣 · イタリア・スペイン
火事も弔いも知らせた、スペインの教会の鐘
旅先の広場で教会の鐘が鳴ると、つい時計を確かめたくなります。けれど、その土地に暮らす人々は、時刻や礼拝の始まりのほかに、どんな知らせを聞き取ってきたのでしょうか。

スペインでは火事や祭り、弔事などを地域ごとに異なる鳴らし方で伝え、イタリアにも土地ごとの手動の奏法と行事の結び付きがあります。鐘を訪ねる旅では、響きの美しさを味わいながら、その音を聞いて人々が何を知り、どんな日を迎えてきたのかにも耳を澄ませてみたいものです。
アルバイダで知る、祝いと急報の鳴らし分け
スペイン東部、バレンシア地方の内陸にあるアルバイダは、手で鐘を鳴らす伝統を日々守ってきた町です。周囲の山から眺めると、谷に広がる畑や道路の間に家々が集まっています。この町では13世紀以来、毎日手動で鐘を鳴らしてきましたが、現在見学できる鐘楼は17世紀のものです。鐘を聞く時間を旅程に入れるなら、こうした暮らしの中で続く場所を訪ねる楽しみがあります。
鐘の知らせを知る手掛かりになるのが、「コンスエタ」と呼ばれる慣習をまとめた決まりです。アルバイダでは、火事を告げるときは「コル・デ・ヘスス」という鐘を素早く打つ、と記されています。同じ鐘楼から届く音でも、いつもの祈りとは違う、急いで伝えるべき用事があったのです。ただし、これはこの町に伝わる決まりです。スペイン中の鐘を、一つの鳴らし方で読み解くことはできません。
弔いにも固有の合図があります。この町の決まりでは、朝、正午、夕暮れのいずれかに死去を知らせ、女性なら「ドラン」と呼ぶ打鐘を2回、男性なら3回とする区別が記されています。音を数えることで、誰かの死を知らせる内容の一部まで伝えていました。旅人には同じ鐘の響きに聞こえても、土地の習わしを知る人には、受け止めるべき知らせが含まれていたのです。

石壁を見上げると、時計の下に鐘のある開口部が見えます。写真: Joanbanjo(CC BY-SA 3.0)/元ページ
祝いの日には、どの鐘が、どの順番で加わるかにも意味があります。アルバイダの祭りの鳴らし方は、鐘の組み合わせや登場する順序によって、祝う祭日を区別します。大きな祝祭には、すべての鐘が参加する鳴らし方も用意されています。にぎやかさに心を引かれたら、「今日は何のお祝いですか」と尋ねてみましょう。祭りの名を一つ知るだけでも、頭上の響きと目の前の町が結び付きます。
こうした記録に残る合図を、訪問日にすべて聞けるわけではありません。見学を考えるなら、鐘楼の案内や手動で鳴らす機会を事前に確かめるとよいでしょう。普段の鐘と祭日の鐘の違いを教われば、短い滞在でも、耳を向ける先が少し変わります。
ボローニャでは、鐘を操る人の動きにも目を向けて
イタリアへ渡ったら、北部のボローニャを訪ねてみます。マッジョーレ広場に面するサン・ペトロニオ聖堂は、白や淡い赤の石を使った下部と、れんがの色が残る上部が印象的です。広場を歩く人や聖堂前で腰を下ろす人を眺めながら、まずは建物と人々の距離を感じてみましょう。鐘の響きを受け止めるのも、こうして人が行き交う町です。

サン・ペトロニオ聖堂の前には、人々が歩き、集まる広場があります。写真: Paolobon140(CC BY-SA 4.0)/元ページ
この町の鐘の伝統は、16世紀後半のサン・ペトロニオ聖堂の鐘楼にさかのぼり、ほかの教会へも広がっていきました。今も、ボローニャ式の「ドッピオ」と呼ばれる打鐘が、主要な宗教行事で受け継がれています。ここで面白いのは、鳴らす順序に加え、重い鐘をどのように動かすかにも土地の技術があることです。
ボローニャの伝統奏法には、鐘の口を下に向けて止めたまま、座った奏者が手足で細い綱を操り、内部の舌を動かして鳴らすものがあります。一方、綱で鐘を揺らし、口を上に向けた姿勢まで起こして、決まった順序の打鐘を奏でてから、息を合わせて元の姿勢へ戻す方法もあります。鐘を鳴らす人々は、腕の力と動作のタイミングを使い分けているのです。

ボローニャの鐘の奏者たちが、鐘のすぐそばで操作する様子です。鐘と綱、奏者の位置関係が分かります。写真: Elena Selmo(CC BY-SA 4.0)/元ページ
イタリアの手動の鐘は、土地ごとに奏法が異なり、祭りや祝いと結び付いています。その技術は、家族や団体の中で、実際に手を動かしながら伝えられてきました。演奏や公開の機会に出会えたら、音と音の間にある人の動きにも注目したくなります。地上まで届く一続きの響きには、鐘を扱う人たちの練習と連携があります。
食卓でひと息ついてから、もう一度広場へ
ボローニャの散策の合間には、肉のラグーを絡めたタリアテッレを味わう時間も取ってみましょう。幅のある麺をフォークに巻きながら、先ほど耳にした鐘について話すのも、旅の楽しみです。食事を終えて外へ戻ったら、通りから広場へ、聖堂の近くから少し離れた場所へと歩き、次に鐘が聞こえたところで足を止めてみます。

ボローニャの食卓から、ラグーを絡めたタリアテッレの一皿です。写真: Petar Milošević(CC BY-SA 4.0)/元ページ
アルバイダでは、鳴らし分けの決まりから、火事や弔い、祭りを知らせる音を知りました。ボローニャでは、行事を彩る演奏の背後に、鐘を動かす人々の技術が見えてきます。次の旅で鐘が鳴ったら、時刻を確かめたあとに、もう少しだけ聞いてみてください。その音をこの町では何と呼び、いつ鳴らしてきたのでしょうか。土地の人に尋ねたいことが一つ増えると、鐘楼を見上げる時間も、これまでとは違って感じられそうです。
出典
- Manual bell ringing
- Ring the bells by hand
- Campaners d'Albaida — Consueta
- Arte campanaria bolognese
- Vista a Albaida - panoramio.jpg — bladimiro / CC BY-SA 3.0
- Image license — CC BY-SA 3.0
- Campanar de l'església arxiprestal de santa Maria d'Albaida.JPG — Joanbanjo / CC BY-SA 3.0
- Veduta della Basilica di San Petronio da piazza Maggiore, Bologna.jpg — Paolobon140 / CC BY-SA 4.0
- Image license — CC BY-SA 4.0
- Unione campanari 1.jpg — Elena Selmo / CC BY-SA 4.0
- Tagliatelle al ragu Bolognese.jpg — Petar Milošević / CC BY-SA 4.0
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