食文化 · イタリア料理
羊の道をたどって、イタリアの村へ。季節の移牧が伝える暮らし
山の斜面に身を寄せる家々と、その向こうに広がる草地。イタリア中部、アブルッツォの山里を訪ねるなら、村の外へ続く道にも目を向けてみたいものです。かつて羊飼いは群れを連れて山と平野を往復し、季節に合わせて暮らす場所を変えてきました。その移動を「トランスマンツァ」と呼びます。道沿いの村々は、羊たちが通るたびに、何を次の世代へ受け渡してきたのでしょうか。

受け継いできたのは、家畜と土地を扱う知識に加え、食づくりや手仕事、季節の移動を祝う祭りです。羊飼いは日々の仕事を通じて若い世代に技を伝え、春と秋の祭りでは移牧の担い手が食べ物や儀礼、物語を分かち合いながら、若い世代に移牧の営みを紹介しています。高原を眺め、村を歩き、その土地の料理を味わうと、移牧が暮らしのさまざまな場面に関わってきたことが見えてきます。
夏の草を求めて、アブルッツォの高原へ
グラン・サッソ山塊のカンポ・インペラトーレは、羊が夏を過ごす放牧地として知られる高原です。中南部の移牧では、春になると群れが山へ向かい、秋には平野へ戻りました。夏の暑さで平野の草が乾くころ、山の草地を利用するためです。アブルッツォからモリーゼ、プーリアなどへと延びる移牧路は「トラットゥーロ」と呼ばれ、山間部と南の平野を結んでいました。
いまもこの一帯では、地元の羊飼いが標高の違う放牧地へ群れを移しています。遠くの平野まで歩いた歴史と、山の中で季節ごとに場所を変える現在の仕事。その両方を思い浮かべながら高原を眺めると、草地の広がりにも意味が生まれます。羊をどこで飼い、自然の資源をどう使うかという知識は、羊飼いが日々の仕事を通じて若い世代に伝えてきたものです。
石造りの村で、羊毛と乳の仕事に出会う

高原とあわせて訪ねたいのが、アブルッツォのカステル・デル・モンテです。家々が斜面に重なり、路地には建物の下をくぐるアーチ状の通路が残っています。村に点在する民俗博物館の展示室では、牧畜や羊毛加工の歴史をたどれます。羊毛の展示には糸を紡ぐ道具や足踏み式の織機、衣類や毛布があり、牧畜の展示では羊飼いの服や移牧に使った道具を見られます。
羊毛は、かつてこの村の重要な交易品でした。村で扱われた羊毛はフィレンツェにも売られ、羊を飼う仕事が遠方の町との商いにつながっていました。展示された織機の前では、羊の毛が糸になり、布になっていく工程を想像してみてください。群れを追う人の仕事に、村で素材を加工する人の手仕事が続いていたのです。
乳の加工も、この土地を知る楽しみです。村の名を冠した「カネストラート・ディ・カステル・デル・モンテ」は羊乳のチーズで、表皮には成形に使う籠の模様が付きます。職人は固めた乳を籠型に入れて水分を抜き、塩を施して熟成させます。熟成の進んだものはしっかりした辛みがあり、切って食べるほか、すりおろしても使われます。店で出会ったら、熟成の長さや食べ方を尋ねてみるのもよさそうです。

食事には、羊肉を小さく切って串に刺し、焼き上げるアロスティチーニもあります。チーズと羊肉の料理を味わえば、山で見た群れと村の食卓とのつながりを、身近に感じられるでしょう。放牧地だけを訪ねる旅に、乳を加工する仕事や土地の料理を加えると、羊とともに暮らしてきた人々への関心も広がります。
秋のアルプスでは、村が群れを迎えます

群れを迎える共同体の姿を見たいなら、今度は北のアルプスへ目を向けましょう。南チロルのヴァル・セナーレスでは、羊飼いが初夏に羊をオーストリア側の夏の放牧地へ連れていき、9月半ばに連れ帰ります。国境を越えて山の草を利用する、現在も続く移牧です。帰還先の村のひとつ、ヴェルナーゴでは、住民や訪問者が祭りと伝統音楽で羊飼いたちを迎えます。
群れが戻ると、羊は色の印をもとに持ち主ごとに分けられ、それぞれの放牧地へ帰っていきます。祝う時間のすぐそばで、家畜を扱う仕事も進みます。春と秋の移牧の節目には、食べ物や儀礼、物語を分かち合い、若い世代がその営みに親しむ機会があるのです。羊飼いは日々の仕事を通じて若い世代に技を伝え、春と秋の祭りでは移牧の担い手が食べ物や儀礼、物語を分かち合います。
移牧を訪ねる旅では、高原だけでなく、その下の村にも時間を取りたいものです。羊毛の道具を見て、チーズを味わい、秋には群れを迎える人々の輪に加わる。そこで出会うのは、季節に合わせて動物と暮らすための知恵を、日々の仕事と祝いの両方で伝える人たちです。村の外へ延びる道を見送るころには、次の季節にも群れが戻ってくることの重みが、少し違って感じられるかもしれません。
出典
- UNESCO「Transhumance, the seasonal droving of livestock」
- UNESCO World Heritage Centre「The Transhumance: The Royal Shepherd's Track」
- イタリア文化省「La Transumanza」
- カステル・デル・モンテ「Il museo civico etnografico/村の案内パンフレット」
- Slow Food Foundation「Castel del Monte Canestrato」
- Italia.it「Abruzzo, uno scrigno di sapori e di saperi dalla montagna al mare」
- Südtirol「Transumanza」
- Merano e dintorni「Transumanza delle pecore a Vernago」
- AbrCampoImperatore1.jpg — Ziegler175 / CC BY-SA 4.0
- Castel del Monte 01(RaBoe).jpg — Ra Boe / CC BY-SA 3.0
- Arrosticini abruzzesi 01.jpg — Superchilum / CC BY 4.0
- Transumanza in Valle Inferno.jpg — Nicola Fotonico / CC BY-SA 4.0
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