食材・道具 · スペイン料理

土の水差しが涼をつくる、スペインのボティホを訪ねて

スペイン南部、アンダルシアのコルドバ県に、陶器づくりで知られるラ・ランブラという町があります。空から見ると、白い家々が集まる町の周囲に畑が広がり、道路がその間を縫っています。器のふるさとを訪ねる旅は、華やかな絵皿だけでなく、夏の飲み水を冷やしてきた素焼きの水差しにも目を向けてみたいものです。

公開 · 読了目安 4分

畑に囲まれたラ・ランブラの町を上空から望む

その水差しは「ボティホ」と呼ばれます。ふくらんだ胴に持ち手がつき、水を入れる口と、細く水を出す飲み口を備えています。電源につなぐ場所も、氷を詰める仕切りも見当たりません。それでも水を冷やせるのは、土の壁に目に見えないほど小さな隙間があるからです。

少しずつ水を失いながら、冷やします

ボティホの中では、水の一部が多孔質の土の壁を通って表面へ移り、そこで蒸発するときに必要な熱を内部の水から奪うため、残った水の温度が下がります。冷える仕組みには水の蒸発が欠かせず、水を少しずつ失うことで涼しさを得ているのです。

水が土を通ると聞くと、底からぽたぽた漏れる姿を想像するかもしれません。ここで働くのは、壁をじわじわと湿らせるような水の移動です。外側へ届いた水が水蒸気になり、そのあとを内部の水が補います。器は水をためる役目と、蒸発する面を広く保つ役目を兼ねています。

白い素焼きのボティホ。丸い胴の左右に二つの口がある
白い土でつくられたボティホの一例。左右の口と、中央に立ち上がる持ち手が特徴的です。写真: Lourdes Cardenal(CC BY-SA 3.0)/元ページ

濡れた肌に風が当たると、ひんやり感じることがあります。ボティホでも、蒸発するときに熱を使うという同じ現象が起きています。水を沸騰させなくても蒸発は進み、そのための熱を失った水が冷えます。素朴な器の表面で、水の移動と熱の移動が同時に続いているのです。

涼しい水には、乾いた空気と風通しを

ただし、ボティホに水を入れれば、どこでも同じように冷えるわけではありません。空気が乾いているほど表面の水は蒸発しやすく、湿度が高ければ蒸発は進みにくくなります。風通しも大切です。湿った表面のそばにたまる水蒸気を風が運び去ると、次の水が蒸発しやすくなります。同じ器でも、置く場所やその日の天気で冷え方は変わります。

置き場所として向いているのは、風の通る日陰です。日差しや暖かい周囲からは熱が入る一方、蒸発によって熱が出ていくので、水温は両方の影響を受けます。冷却には空気の温度と湿度などで決まる限界があり、時間をかければ際限なく冷えるわけではありません。乾いた夏の空気を生かす道具だからこそ、器を見るだけでは分からない土地の気候も、その働きの一部になっています。

表面の仕上げにも理由があります。水の通り道を釉薬などでふさいだ器では、壁を通った水の蒸発を利用しにくくなります。旅先で艶やかな陶器と素焼きの水差しが並んでいたら、色や模様に加えて、表面にも注目してみてください。水を冷やすボティホには、土の隙間を残すことが大切なのです。

ラ・ランブラで、器をつくる手に目を向けます

ラ・ランブラの陶器づくりは、周辺で採れる粘土と結びついてきました。この町の水差しや壺、植木鉢などはスペイン各地の家庭へ運ばれ、ボティホも夏の水を冷やす器として使われてきました。現在は装飾陶器などへ製品の幅が広がっていますが、暮らしの器をつくってきた仕事も、この町を知る手がかりになります。

ラ・ランブラの工房でろくろに向かう職人と、作業台に並ぶ土の器
ラ・ランブラの工房で、ろくろに向かう職人。作業台には丸い器が並び、土から形をつくる仕事の様子が伝わります。写真: José Miguel Mejías del Río/© Instituto Andaluz del Patrimonio Histórico(CC BY 3.0 ES)/元ページ

工房の写真を見ると、ろくろの上の土に、職人が両手を添えています。その周囲に並ぶ器は、どれも丸みを帯びながら、口や肩の形が少しずつ異なります。ボティホを眺めるときにも、ふくらんだ胴や小さな飲み口が、こうした手の仕事で形づくられることを思い出します。ラ・ランブラには陶器博物館もあり、器を通して町を知る楽しみがあります。

旅先で出会う水差しの見方は、仕組みを知ると少し変わります。素焼きの肌を見て、そこを通るわずかな水と、その先にある空気を思い浮かべるようになります。白い町を取り巻く畑、土を整える手、風の通る日陰。ボティホの冷たい水を想像すると、夏の暮らしを支えてきた器が、土地の風景とともに心に残ります。

出典

Chef Authen

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