食文化 · フランス料理

セーヌの緑の箱には誰がいるのか

セーヌの河岸に並ぶ緑の箱。パリらしい風景の向こうには、推理小説、哲学、音楽と、それぞれ違う本を選ぶ人がいます。箱を撮る写真から、人を撮る写真へ目を移すと、何が見えるのでしょうか。

公開 · 更新 · 読了目安 6分

セーヌ河岸に並ぶ古書店の箱と本

緑の箱の向こうにいる人

セーヌの河岸に緑の箱が並び、ふたを開けると、本や雑誌の表紙が現れる。パリの古書店、ブキニストの風景です。似た色の箱が続くので、川沿いを歩きながら一つの景色として眺めることもできますが、本を探すなら、どの箱の前で立ち止まるかによって出会うものが違ってきます。店主の関心や得意な分野が、並べる本にも表れるからです。

写真家アラン・コルニュは、パリ市のインタビューで、古書店主たちが絵はがきの背景に収まり、その人自身はよく知られていないと語っています。彼が撮影で目を向けたのは、箱の前にいる店主でした。撮るうちに話を聞くことにもなり、予定していなかった聞き取りを加えたといいます。川沿いにいる人へ声をかけると、同じ緑の箱の向こうから、違う仕事の話が出てきたのです。

同じ箱でも、並べる本は違う

コルニュが挙げる店主の専門は、たとえば推理小説、哲学、ロック音楽です。ファッションを扱う人もいれば、あるシリーズに詳しい人もいる。探す本が決まっていれば、得意な分野の近い店を探す楽しみがあり、決まっていなければ、店主が集めた本から、自分の知らない関心に出会う楽しみもあります。古い本という大きなくくりの中に、それぞれの選び方があるのです。

写真を撮るうちに彼が出会ったのは、年齢も経歴も違う人々でした。若い店主もいると、わざわざインタビューで話しています。昔から同じ人が同じ本を売り続ける景色として見てしまうと、いまその仕事を選んでいる人が見えない。箱の古びた外観と、店主が何に関心を持って本を選ぶかは、分けて見る方が楽しめそうです。

本や絵はがきを並べた緑の箱と、河岸を歩く人々
パリのコンティ河岸に並ぶブキニストの売り場。開いた緑の箱に本や絵はがきが並ぶ。 写真: Ninara from Helsinki, Finland, Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

河岸の景色と、本屋の技能

箱そのものにも来歴があります。パリ市の歴史紹介によると、1891年には、許可された売り場に商品を夜も残せるようになりました。それ以前の、持ち運べる小さな木箱とは事情が違います。緑の箱がそこに置かれている姿は、いつの時代にも変わらずあった風景ではなく、河岸で本を売る人の仕事とともに形を変えてきました。

セーヌ川の遊覧船と、対岸に連なる建物や教会
パリのセーヌ川とオテル・ド・ヴィル河岸。川沿いの建物の前を遊覧船が進む。 写真: DANIEL JULIE from Paris, France, Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

セーヌ河岸が世界遺産になったことに加え、ブキニストの伝統や技能も、2019年にフランス国内の無形文化遺産の目録へ入りました。パリ市が別々に紹介するこの二つは、残したいものの違いを考える手がかりになります。川沿いに並ぶ物や建物は目で見られますが、本を選ぶ知識や客と話す仕事は、店主が箱を開いて商売をする中で使われるものです。

同じ緑の箱に、違う本がある

河岸の写真を見返すとき、箱の色のほかに、その前にいる人へも目を向けてみる。誰かが本を選んで並べ、客が足を止めると、本に関する知識を交わす機会ができます。1891年から商品を夜も残せるようになった場所で、残っているのは箱だけではありません。いまも箱を開く人がいることで、古い本を次に読む人へ渡す仕事が続いているのです。

出典

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