手仕事と生業 · フランス

村で牛乳を持ち寄る、フランスのチーズ作り

フランス東部、スイスとの国境に沿うジュラ山地。草地の向こうに針葉樹の林が続き、その先には幾重もの稜線がかすみます。この土地を旅するとき、風景とともに味わいたいのが、円盤形の大きなチーズ、コンテです。店先で切り分けられた一片からは想像しにくいほど、もとの姿には迫力があります。標準的な一玉は約40キログラム。その一玉に、およそ400リットルもの乳を使います。

公開 · 読了目安 4分

草地と針葉樹林、その奥の稜線までを見渡すジュラ山地の風景

これほど大きなチーズを、なぜ酪農家たちは乳を持ち寄って作ってきたのでしょうか。長い冬に備える大きな保存用チーズには大量の乳が必要で、酪農家は共同の工房に乳を集めたのです。その工房は「フリュイティエール」と呼ばれます。牧草地からチーズの売り場へ向かう途中に、この村の仕事場を訪ねると、コンテの大きさにも、土地の暮らしにも、少し違った親しみが湧いてきます。

冬の食卓を支える一玉

コンテへと続くチーズ作りの歴史は、中世にさかのぼります。厳しい冬が長く続くジュラでは、乳を保存の利く食べ物に変え、寒い季節の家族の食卓を支えることが大切でした。そこで作られたのが、加熱したチーズの生地を圧搾して仕上げる、大きな保存用のチーズでした。

ただ、大きな一玉を作るには、それに見合う乳が要ります。一軒の農家だけでは十分な量をそろえられなくても、近隣の農家がそれぞれの乳を持ち寄れば、まとまった量を確保できます。冬への備えと、日々搾る乳の量。その両方に応える方法が、共同の工房でチーズを作ることでした。今のコンテに使う約400リットルという数字を思い浮かべると、農家が力を合わせた理由がぐっと身近になります。

フリュイティエールには、製造を支える役割に加えて、人が顔を合わせる場所としての役割もありました。農家が日々乳を持ち寄ることは、離れて暮らす人々の交流の機会にもなったのです。大きなチーズを作るための共同作業が、村の人間関係にも関わっていました。

乳を集め、職人に託す

大きな銅鍋に乳が入り、チーズ製造用の道具が渡されている様子

コンテ作りに使う銅鍋。集めた乳を、ここでチーズに加工していきます。写真: Arnaud 25(パブリックドメイン)・元ページ

工房では、酪農家から届いた乳をチーズ職人が引き受けます。乳を固めてできる「カード」を細かくし、銅鍋の中でかき混ぜながら加熱します。その後、水分であるホエイを除き、型に詰めて圧搾すると、大きな円盤の形ができあがります。草を食べる牛の姿と、売り場に並ぶ黄色いチーズの間には、こうした加工の仕事があります。

形になってからも、すぐに食卓へ届くわけではありません。工房での前熟成を経て、熟成士が管理する熟成庫へと移され、塩を加え、表面の手入れをしながら育てていきます。コンテの熟成期間は最低120日。酪農家、チーズ職人、熟成士が順に仕事を受け持ち、ようやく食べごろを迎えます。

共同の仕事は、乳を混ぜる工程だけで終わりません。酪農家が運営する協同組合と熟成業者は、チーズを預けて熟成し、販売するための関係を築いています。製造の改善や設備、人手について相談することもあります。毎日の乳をチーズに変え、そのチーズを売って次の生産を続けるために、異なる仕事を担う人々が協力しているのです。

ひと切れから、牧草地を思う

牛と牧草も、もちろんコンテを知る大切な手がかりです。乳を生産するのは、モンベリアード種やシンメンタール種の牛たち。暖かい季節には牧草地で草を食べ、冬には干し草を食べます。旅先で眺める草地は、チーズの原料を生む場所でもあります。工房と熟成庫の仕事を知ったあとで見ると、その草地と食卓との距離が、少し縮まったように感じられます。

黒い石板の上に置かれた、薄茶色の外皮と黄色い断面を持つコンテ

大きな円盤から切り分けられた、18か月熟成のコンテ。写真: Coyau / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)・元ページ

売り場でコンテを選ぶなら、熟成期間と一緒に、どの工房で作られたものかを尋ねてみたくなります。淡い黄色の断面を眺め、ひと口をゆっくり味わうとき、思い浮かべたいのは、牛のいる草地と乳の集まる工房です。コンテの産地らしさには、牛や牧草に加えて、生産者が協力して仕事を続ける仕組みも関わっていると考えられます。

長い冬に備えて乳を持ち寄った人々の工夫は、今も共同の工房での仕事へと続いています。ジュラを旅する楽しみは、チーズを買って味わうだけでなく、その一片を作る人たちの営みを、風景の中に見つけることにもあります。

出典

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